2006年11月22日

それから三の四

「身体(からだ)は丈夫だね」
「二三年このかた風邪(かぜ)を引(ひ)いた事(こと)もありません」
「頭(あたま)も悪(わる)い方ぢやないだらう。学校の成蹟も可(か)なりだつたんぢやないか」
「まあ左様(さう)です」
「夫(それ)で遊(あそ)んでゐるのは勿体ない。あの何とか云つたね、そら御前(おまへ)の所へ善(よ)く話しに来(き)た男があるだらう。己(おれ)も一二度逢つたことがある」
「平岡ですか」
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それから三の三

 代助は今(いま)此(この)親爺(おやぢ)と対坐してゐる。廂(ひさし)の長い小(ちい)さな部屋なので、居(ゐ)ながら庭(には)を見ると、廂(ひさし)の先(さき)で庭(には)が仕切(しき)られた様な感がある。少(すく)なくとも空(そら)は広(ひろ)く見えない。其代り静(しづ)かで、落ち付いて、尻(しり)の据(すわ)り具合が好(い)い。
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それから三の二

 代助の尤(もつと)も応(こた)へるのは親爺(おやぢ)である。好(い)い年(とし)をして、若(わか)い妾(めかけ)を持(も)つてゐるが、それは構(かま)はない。代助から云(い)ふと寧ろ賛成な位なもので、彼(かれ)は妾(めかけ)を置く余裕のないものに限(かぎ)つて、蓄妾(ちくしよう)の攻撃をするんだと考へてゐる。親爺(おやぢ)は又大分(だいぶ)の八釜(やかま)し屋(や)である。小供のうちは心魂(しんこん)に徹(てつ)して困却した事がある。しかし成人(せいじん)の今日(こんにち)では、それにも別段辟易する必要を認(みと)めない。たゞ応(こた)へるのは、自分の青年時代と、代助の現今とを混同して、両方共大(たい)した変りはないと信じてゐる事である。続きを読む
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それから三の一

 代助(だいすけ)の父(ちゝ)は長井得(ながゐとく)といつて、御維新のとき、戦争に出(で)た経験のある位な老人であるが、今でも至極達者に生きてゐる。役人を已(や)めてから、実業界に這入つて、何(なに)か彼(かに)かしてゐるうちに、自然と金が貯(たま)つて、此十四五年来は大分(だいぶん)の財産家になつた。
 誠吾(せいご)と云ふ兄(あに)がある。学校を卒業してすぐ、父(ちゝ)の関係してゐる会社へ出(で)たので、今では其所(そこ)で重要な地位を占める様になつた。梅子といふ夫人に、二人(ふたり)の子供(こども)が出来た。兄は誠太郎と云つて十五になる。妹は縫(ぬひ)といつて三つ違である。
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それから二の五

 代助は平岡(ひらをか)が語(かた)つたより外(ほか)に、まだ何(なに)かあるに違(ちがひ)ないと鑑定した。けれども彼はもう一歩進んで飽迄其真相を研究する程の権利を有(も)つてゐないことを自覚してゐる。又そんな好奇心を引き起すには、実際あまり都会化し過ぎてゐた。二十世紀の日本に生息する彼は、三十になるか、ならないのに既に nil(ニル) admirari(アドミラリ) の域に達して仕舞つた。続きを読む
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それから二の四

 両人(ふたり)は酔(よ)つて、戸外(おもて)へ出(で)た。酒(さけ)の勢で変な議論をしたものだから、肝心の一身上の話はまだ少しも発展せずにゐる。
「少(すこ)し歩(ある)かないか」と代助が誘(さそ)つた。平岡も口(くち)程忙(いそ)がしくはないと見えて、生返事(なまへんじ)をしながら、一所に歩(ほ)を運(はこ)んで来(き)た。通(とほり)を曲(まが)つて横町へ出(で)て、成る可(べ)く、話(はなし)の為好(しい)い閑(しづか)な場所を撰んで行くうちに、何時(いつ)か緒口(いとくち)が付(つ)いて、思ふあたりへ談柄(だんぺい)が落ちた。
 平岡の云ふ所によると、赴任の当時彼は事務見習のため、地方の経済状況取調のため、大分忙がしく働らいて見た。出来得るならば、学理的に実地の応用を研究しやうと思つた位であつたが、地位が夫程高くないので、続きを読む
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2006年11月04日

それから二の三

 両人(ふたり)は其所(そこ)で大分(だいぶ)飲(の)んだ。飲(の)む事(こと)と食(く)ふ事は昔(むかし)の通りだねと言(い)つたのが始(はじま)りで、硬(こわ)い舌(した)が段々(だんだん)弛(ゆる)んで来(き)た。代助は面白さうに、二三日前(まへ)自分の観(み)に行つた、ニコライの復活祭の話をした。御祭(おまつり)が夜(よ)の十二時を相図に、世の中の寐鎮(ねしづ)まる頃を見計(みはから)つて始(はじま)る。続きを読む
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