2006年06月10日

草枕 一

 山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。
 智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情(じょう)に棹(さお)させば流される。意地を通(とお)せば窮屈(きゅうくつ)だ。とかくに人の世は住みにくい。
 住みにくさが高(こう)じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟(さと)った時、詩が生れて、画(え)が出来る。
 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣(りょうどな)りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、続きを読む
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草枕 二

「おい」と声を掛けたが返事がない。
 軒下(のきした)から奥を覗(のぞ)くと煤(すす)けた障子(しょうじ)が立て切ってある。向う側は見えない。五六足の草鞋(わらじ)が淋(さび)しそうに庇(ひさし)から吊(つる)されて、屈托気(くったくげ)にふらりふらりと揺れる。下に駄菓子(だがし)の箱が三つばかり並んで、そばに五厘銭と文久銭(ぶんきゅうせん)が散らばっている。
「おい」とまた声をかける。続きを読む
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草枕 三

 昨夕(ゆうべ)は妙な気持ちがした。
 宿へ着いたのは夜の八時頃であったから、家の具合(ぐあい)庭の作り方は無論、東西の区別さえわからなかった。何だか廻廊のような所をしきりに引き廻されて、しまいに六畳ほどの小さな座敷へ入れられた。昔(むか)し来た時とはまるで見当が違う。晩餐(ばんさん)を済まして、湯に入(い)って、室(へや)へ帰って茶を飲んでいると、小女(こおんな)が来て床(とこ)を延(の)べよかと云(い)う。
 不思議に思ったのは、続きを読む
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草枕 四

 ぽかんと部屋へ帰ると、なるほど奇麗(きれい)に掃除がしてある。ちょっと気がかりだから、念のため戸棚をあけて見る。下には小さな用箪笥(ようだんす)が見える。上から友禅(ゆうぜん)の扱帯(しごき)が半分垂(た)れかかって、いるのは、誰か衣類でも取り出して急いで、出て行ったものと解釈が出来る。扱帯の上部はなまめかしい衣裳(いしょう)の間にかくれて先は見えない。片側には書物が少々詰めてある。一番上に白隠和尚(はくいんおしょう)の遠良天釜(おらてがま)と、伊勢物語(いせものがたり)の一巻が並んでる。昨夕(ゆうべ)のうつつは事実かも知れないと思った。
 何気(なにげ)なく座布団(ざぶとん)の上へ坐ると、続きを読む
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